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(異文化コミュニケーションってヤツ?)
帰宅後、撮影した写真のデータを自分のパソコンに取りこんだ。動揺すべき出来事ではあったが、体は自然と日常をこなしていく。
「我ながら、上出来……かも」
本日の「作品」について、あやふやな感想を述べた。闖入者を傍らに置いた状況での撮影に集中できるはずもなく、結局、屋上に降り立つことすらせずに、塔屋からカメラを構えた。雨の勢いが弱まり、気まぐれな薄日が射した時……手にした傘を下ろし、宙を見上げる志貴の後ろ姿が写っている。
どこか心ここにあらずという雰囲気だった同級生は、シャッター音にも気づかずに、ぼんやりと佇んでいた。灰色が支配する雨上がりの景色の中、溌剌としたオレンジ色の髪の毛だけが、生あるもののように風に揺れて。
カチ、と、硬質なマウスの音の後、志貴の写真はパソコン上のファイル内に収容された。
これまでに撮りためた屋上からの風景の一覧を見るでもなく眺める。春の淡い夕空、猛々しく色味を変える夏の空、もっとも色彩豊かな秋空、気を抜くとすぐに暮れてしまうせっかちな冬の夕焼け……。
「順位づけとか、難しいな」
志貴の言葉を真に受けて、コレクションを披露する気などさらさらない。意気揚々と選んだ写真を掲げなどすれば、呆れられるだけだ。
――げ。冗談に決まってんじゃん。なに、真に受けてんの?
――これだから、オタクは。
そんな台詞を吐く志貴を想像してみたが、耳に焼きついた彼の声はのんびりと穏やかな旋律であり、再生は難しかった。
我ながらわざとらしい嘆息の後、ベッドに寝転んだ。
「浮かれんなよ、馬鹿」
自分と似たような写真部の友人たちと共有する喜びとは一味も二味も異なる。未知の存在である志貴に、己の行動を知られたことはマイナスでしかないはずなのに。
「イケメンって、後ろ姿もカッコいいんだな……」
一人で屋上に立つ志貴の背中から目が離せなかった。貴重な被写体を前に、自然とカメラを構えたのは当然のことだ。
雲一つない澄み切った青空。
彼を例えるなら、そんなところだ。
その清々しさは完全すぎて、被写体として興味を持ったことはなかった……いままでは。
陰鬱な雨空の下で対峙した志貴は器用にごまかしてはいたものの、明らかになにか問題を抱えていた。
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