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『シャンティ』は茗急百貨店の三階、婦人雑貨および婦人服フロアの一角に店舗を構える婦人服ブランドである。
「ようこそ、いらっしゃいませ!」
バラ色のじゅうたんが敷かれた店内に踏み入ると、若い店員が笑顔で出迎える。金髪のショートヘアに赤いリップ。かっちりした墨黒のテーラードジャケットと、同素材の細身のパンツを身に着けている。ともすれば暗い印象になりそうなセットアップを、明るい緑のシャツと白いスニーカーを合わせてスポーティに着こなしていた。
ついで、展示された衣服が視線を誘う。ブランドテーマは『旅する魔女のワードローブ』。華やかな色合いに、着る人を選ばない(つまり、締めつけ感の少ない)シルエットのワンピースやフレアパンツ、お手ごろなアクセサリーなどは「ちょっとした」お出かけ服として人気が高い。
店の中ほどには、ゴールドベージュのカーテンがかかる大きめの試着室が一つ。さらに奥には小さなテーブルが置かれ、女性が一人、脚の長いスツールに腰掛けている。
年齢不詳ながら「マダム」という形容詞が自然に浮かんでくるこの女性こそ、シャンティの店長だった。ウェーブのかかったモカブラウンの髪をふんわりまとめ上げ、銀色のかんざしで留めている。シックなリトル・ブラック・ドレスの胸もとには、細いシルバーチェーンのネックレス。深めのスリットからのぞくストッキングの足先を、ヒール高さ八十五ミリの黒いパンプスが守っている。
女性は、テーブルに広げたノートを真剣なまなざしで見つめていた。そのようすは神秘的……というか、どこか鬼気迫るものがある。そこに、先ほどの金髪スーツの店員が駆け寄ってきた。
「店長やばいっす! 試着室のお客さまが出てこなくなっちゃいましたぁ!」
「……水原さん。言葉づかいに気をつけなさい」
野生子は、それまで睨みつけていた売上台帳をぴしゃりと閉じた。
店内ではいついかなるときも機嫌よく、明るいハピハピオーラを振りまくべしというのが彼女のモットーである。だが年齢を重ねた今日このごろ、体力的にも精神的にも衰えが見えはじめ、さらに自営業の厳しい現実を毎日わからせられている身ともなれば、全方位に無差別ポジティブを放出するにも限界があった。
その点、社会人一年目のぺーぺーである水原は怖いもの知らずの強さというものがあり、先ほどもナチュラルハイテンションのキマった大声で「ようこそー、らっしゃっせー!」などと叫んでいるのが聞こえてきたところだ。
「それで、お客さまがどうされたって?」
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