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ヴァレリアはあちこちから招待を受けて何度も舞踏会に出かけているが、リダは経験がない。
これからも経験することはないだろうし、それが当然とも思っている。
ただ楽士が奏でる音色はリダの心を華やがせ、旋律に身をゆだねて踊るふたりは目に楽しい。
優美な曲から陽気な曲へと、楽士は自在に楽器をあやつり、男女の動きと表情もそれに合わせて別人のように変わる。
音がやんで足を止めた男女が礼をしたとき、リダは自然に拍手を贈っていた。
「その拍手の意味は?」
横からクローディスに声をかけられ、リダは怖じ気づいた。
「えっ……すばらしかったからです、けれど……」
拍手などしてはいけなかったのだろうか。
リダはおどおどとクローディスの表情をうかがった。
するとクローディスも拍手を始めた。
その横顔には微笑が浮かんでいる。
「彼らは平民、魔力を持たない者だ。きみと、そして俺と同じように」
リダはどきりとした。
ただクローディスに自虐の翳りなどみじんもなく、その表情もまなざしも、むしろ自然な自信に満ちて見える。
「だが彼らの音楽もダンスも、こんなにもすばらしい」
彼の視線は一団に向いて、リダになんの催促もしていない。
「──はい」
そして彼に同意するために嘘をつく必要もなかった。
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