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§ § §
晩冬の狩猟会をすませた貴族たちの次の関心は、一か月後の大舞踏会だ。
王宮の大広間を中心に三日にわたって催され、春の始まりを告げるこの行事は、王家とのつながりを深めたがる貴族にとっては華やかな政争の場となり、一方で独身の貴公子令嬢にとっては配偶者を見つける恋のさや当ての場となる。
去年の狩猟会で一躍名を馳せたヴァレリアは、その後の大舞踏会でも衆目を集めた。
今年の主役も当然のようにヴァレリアと見なされており、そうした期待に応えようとキャシアス侯爵家はまた準備に追われている。
(クローディス殿下も出席されるのかしら)
侍女たちが出払った静かな部屋でぼんやり考えていたリダは、立ちあがった。
お茶は運ばれておらず、暖炉の薪も燃え尽きていたが、もう寒いというほどのこともない。
そして最近は体調もいい。
「たしか、こんな感じで……」
平民の楽士たちが奏でていた音楽をハミングしながら、リダはあのとき見たダンスを思い出して真似てみた。
われながらでたらめな足の運びだが、それもなんだか楽しい。
ドレスの裾をつまんでくるりと回ってみたり、腕を差し伸べてみたり、片足をあげてみたり。
リダはしばらく、聞こえない演奏と見えない相手とのささやかな舞踏会を楽しんだ。
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