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開け放されたままの扉から、ヴァレリアが心配そうな顔をのぞかせた。
「──お母さま、廊下にまで声が聞こえたわ。どうなさったの?」
「どうもこうもありますか! リダがぼんやりしていて何も話さないものだから──」
姉に泣きつく母を眺めながら、リダは呆然と立ちすくんでいた。
低い声で母をなだめるヴァレリアの顔がリダに向いた。
そこには妹の裏切りに深く傷つき、それでもなお許そうとするけなげな微笑が浮かんでいた。
「リダ、だからわたしには正直に話してと言ったでしょう? どうしてクローディス殿下からお誘いされたと教えてくれなかったの?」
リダは弱々しくかぶりを振った。
「でも本当に、大舞踏会の話なんて何も……」
「まあいいわ、すんでしまったことはもう忘れましょう。けれど今度こそ本当のことを教えて、リダ。あなたは大舞踏会に行きたいの?」
「えっ……」
「あなたはクローディス殿下から誘われたけれど行きたくなくて、けれどお断りしてもいいものかもわからなくて、だからわたしにも話せなかったのではなくて? ね、そうでしょう? あなたは気が弱いから、言い出せなかったのよね」
ヴァレリアは優しく話しかけてくる。
それこそどう答えればいいのかわからず、リダは口ごもった。
ただますます視界がにじんでいった。
するとヴァレリアは自分の推測の正しさが証明されたとばかりに微笑み、きっと王宮の方角をにらんだ。
「わたしにまかせて、リダ。直接お断りに行きましょう。作法上あなたにも来てもらわなくてはならないけれど、心配しないで、わたしが全部言ってあげるわ」
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