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§ § §
数日後、第一王子クローディスへの謁見がかなえられた。
馬車のなか、一分の隙なく正装したヴァレリアは微笑みながら、リダの手に自分の手を重ねてきた。
「大丈夫よ、リダ」
姉の自信たっぷりな言葉とは裏腹に、リダは鈍い頭痛をおぼえた。
馬車は第一王子が住む王宮内の東翼宮へと迎え入れられた。
侍従に堂々と案内させるヴァレリアの後ろから、リダはついていった。
幸い頭痛は少しおさまってきて、あたりを眺める余裕はあった。
門近くに白灰岩で造られた開放的な印象の建物で、庭木も自然のままの姿を残している。
(どことなくクローディス殿下のよう)
彼は、回廊に囲まれた日光を存分に受ける中庭で待っていた。
「ようこそ」
侯爵令嬢姉妹を作法どおりに迎えたクローディスだが、ふたりにクッションを置いたベンチを勧めると同時に、自分も別のベンチに座った。
切れ長の目が交互に姉妹を見つめ、リダに落ち着いた。
「それで、訴えたいこととは?」
隣のヴァレリアが眉をひそめたので、リダはひらきかけた口を閉じた。
「時候の挨拶もなく本題だなんて、クローディス殿下はずいぶんと効率に重きを置かれておりますのね」
「目新しくおもしろい挨拶があるのなら喜んでうかがわせていただくが、特にないのだろう? では挨拶用例集で十分だ」
「でしたらわたしも、殿下のご意向に沿わせていただきましょう。このたびおうかがいいたしましたのは」
クローディスは手袋をした手をあげてヴァレリアを制した。
「俺はエルリーダ嬢に尋ねている。付添は黙っていてもらいたい」
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