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彼があたりをうかがいながら、人差し指を自分の口の前に立てた。
リダが口をつぐむと、あの挑発的な微笑ではなく、もっと無邪気でどこかいたずらっぽい顔になって手招きする。
ここでは話したくないらしい。
リダはこくりとうなずいた。
彼が向かったのは大広間に隣接した中庭で、星明かりをほのかにはじくタイルが敷き詰められていた。
あかあかとかがり火も焚かれていたが、春先の冷気を残す夜風のせいもあって人影はなかった。
「──よかった。危うく行き違いになるところだった」
「えっ?」
「キャシアス侯爵家の一行が来ていることを確かめたら、抜け出して侯爵家へ行こうと思っていた。それなら、誰にも邪魔されずにきみと話せる」
クローディスはあっさり言い、なのにリダはどきりとした。
単に驚いただけでなくて、いったん早まった鼓動がそのままとくとくと鳴りつづけている。
そんな胸のせわしさのせいか言葉が出てこない。
クローディスはおもしろそうにリダを見てきた。
「なのにきみから会いに来るとはな。ほんの数日で、なんだかだいぶ変わったようだ」
リダは数度唇を震わせ、やっと言葉を出した。
「──謝りたかったんです。どうしても、クローディス殿下に」
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