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「うん? 何を?」
「ですから姉があんな──たいへん無礼なことを、傷つけるようなことを」
その途端、クローディスは大声をあげて笑った。
リダは目を丸くした。
笑い声の気配が残る声が言う。
「たしかにきみの姉はそうしようと思っていたようだ。実際聖女と呼ばれるだけの力はあるが、残念ながら視野はひどく狭いな。自分は常に正しく、自分の考えは万人に共有されるものと思いこんでいる」
リダが漠然とヴァレリアに抱いていた感情を、彼はずけりと表した。
(本当にそう──)
あるのは納得だけで、姉に申し訳なくなるほどに罪悪感がない。
ヴァレリアといるとしばしば襲われる靄が、二度と戻らないほど完全に消え失せたような気持ちになる。
「あのとき俺が傷ついたと、きみも思ったのか?」
問われて、リダは目を閉じた。
とくとくとまだ治まらない鼓動を感じながら、自分の心を掘り下げる。
「……いえ。クローディス殿下は、おもしろがっていらっしゃったように見えました」
目を開けると、おもしろそうにリダを見つめて目線でうなずくクローディスが見えた。
リダは言葉を続けた。
「傷ついたのはクローディス殿下ではなく、わたしです。姉のせいで、クローディス殿下にわたしまで──嫌われてしまったと思って」
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