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5 嘘と本当
突然の姉の声に、リダははっとした。
クローディスに触れる寸前だった手がびくりとひきつると同時、彼も火に触れそうになったかのように勢いよく手を引いた。
「お姉さま──」
ヴァレリアの顔には、近くのかがり火がゆらゆらと光と影とを落としている。
それが姉の顔にふしぎな表情を貼りつける。
悲しみをこらえて怒っているような、と同時に邪悪に笑っているような。
「リダ……」
優雅に両手を広げて近づいてきた姉に、リダは反射的にあとずさった。
ヴァレリアは鋭く息を呑んだ。
その青い両眼はみるみる険しくなって、クローディスに向いた。
「何も知らない無知な娘をもてあそぶとは、クローディス殿下といえども許せません! 恥を知りなさい!」
リダは目をみはった。
「お姉さま、違います!」
「ああリダ……かわいそうに。どんなことを言われたかは知らないけれど、全部忘れてしまいなさい。何もかも嘘なのよ」
ヴァレリアはリダを見つめた。
いたましげに眉をひそめて、優しく──そして傲慢に決めつける。
「あなたはクローディス殿下にたぶらかされているの。弱いあなたなら自分の好きにできる、飽きれば着古した服みたいに捨てて平気な相手だと知っているから。でもリダ、安心して。そんなひどいことは誰にもさせない。あなたはわたしが守ってあげる。だってあなたはわたしのかわいい妹なのだもの」
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