2人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
§ § §
太古の姿を残す大森林で貴族が鋼狼を狩る狩猟会の起源は古く、三〇〇年ほど前の建国以前までさかのぼる。
貴族を貴族たらしめてきた特別な行事だ。
通常の狼の数倍にもなる巨大な鋼狼は、鋼鉄のように固い毛皮で一般の武器を受けつけず、その群れは村どころか市壁に囲まれた街まで襲って無力な平民はなすすべがない。
天性の魔力を持った一部の者だけが鋼狼を打ち倒すことができ、そうして彼らが貴族となった。
だが、数百年狩られつづけた鋼狼はいまやかなり数を減らした。
現在の狩猟会は、大森林のへりで数頭の鋼狼を狩りながら、貴族たちが互いの魔力を見せつけて誇る場へと変わっている。
「……お姉さま、わたしはそろそろ後ろに下がります」
温かなマントに身を包んで引馬に乗ったリダは、みずから手綱を取って馬に乗る隣のヴァレリアにおずおずと声をかけた。
ヴァレリアは苦笑した。
「リダ、もう少し行きましょう? まだ森の入口よ、こんなところでは狩りの様子は見えないわよ」
ヴァレリア自身はまったく気にも留めていない。
しかしすでに相当数の貴族たちが集まっており、その視線は早くもヴァレリアに釘付けになっている。
──あれがキャシアス侯爵家の聖女か。
最初のコメントを投稿しよう!