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§ § §
かがり火が減った中庭には、星明かりがやわらかに満ちている。
隣に座るクローディスに重い体をあずけながら、リダはぼんやりと彼の話を聞いていた。
「俺も光と影を操ることができるが、そのほかに、相手の手に触れることでその魔力を奪う力も持っている。弟が生まれたとき、俺が手を握った途端に弟の心臓が止まって、医師たちがあわてふためいた。それで俺は自分の隠された力と、まだ生まれたばかりで魔力の乏しい弟を危うく死なせるところだったと気づいた。だからそれ以来ずっと使わないようにして、家族も俺の魔力は消えてしまったものと思っている」
驚くことだと頭ではわかってるのに、少しもそんな感情が起こらない。
遠いどこかの昔話のようで、それでいてあざやかに情景が浮かぶ。
「だが今回は俺の力ではなく、きみの力だ。俺が奪ってしまうより早く、きみから魔力が流れこんできた。きみはどうやら、自分の魔力を人に与える力を持っているらしい」
「……そう、みたいです」
リダはつぶやいた。
魔力を持つ貴族は自然とその使い方を悟る一方、そうした瞬間がなかったからこそリダは自分でも似非者だと思っていた。
だがクローディスを守りたいと強く願ったあのとき、似非者だったリダにもその瞬間が訪れた。
「こんな力は使わなければいいだけと逃げていたが、何がなんでも制御しなければならなくなった」
「え……」
「俺はちゃんと、きみの手を取りたい」
そう言って、笑みを含んだ両眼をリダに向けてくる。
そこに込められた想いが伝わってきて、リダは頬を染めながら微笑んだ。
《了》
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