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感謝は嘘ではない。
だが真実でもない。
(ごめんなさい──わたしがこの家に生まれてしまって、お姉さまの妹になってしまってごめんなさい──)
本当はそう謝りたかった。
だがきっとヴァレリアはそんな謝罪を卑屈と思い、幻滅するだろう。
どれだけ謝ろうと、リダがキャシアス侯爵家に生まれたことも、ヴァレリアの妹であることも変えられない。
だからリダは謝らなかった。
ヴァレリアへの感謝の証として、せめて少しでも「かわいい妹」に近づけるように。
「わたし、お姉さまがお姉さまで本当によかった」
ヴァレリアは微笑み、さらに強く手を握りしめてくれた。
リダもそれに応えてもっと笑った。
無理をしているせいで、血の気どころか意識が遠のいていく気がした。
そのとき、狩猟開始を告げる太鼓が鳴った。
「リダ、ちょっとだけ待っていてね。──わたしのかわいい妹に、誰にも何も言わせないわ」
決意を込めた笑みとともに、ヴァレリアは身を乗り出してリダを抱きしめた。
そしてさっと馬を森へと駆った。
(お姉さまが自分をみんなに認めさせて、こんな妹への悪口を封じようとしてくださっていても……)
靄がかかったような頭が鈍く痛み、ますます具合が悪くなってくる。
乱れる息をリダが懸命に整えようとしたとき、深い森の木々の合間に光と影とが交錯した。
感嘆の声があがる。
──これが聖女の力か!
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