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リダも息を呑む。
光と影の幻想的な舞踏のただなかに、髪をなびかせてヴァレリアがいる。
しなやかに伸びた腕のままに光と影が踊り、森の奥から鋼狼を追い立てる。
巨躯もむなしく逃げ惑う鋼狼が逃げ場を失い、苦し紛れに宙へと飛びあがったところを、ヴァレリアが放った光の矢が貫いた。
見とれていた貴族たちのあいだに、一斉に感嘆の声があがる。
大好きな姉なのに、こうもどうしようもない格差を見せつけられて胸が苦しい。
リダの心も体ももう限界だった。
「──降りて休むわ」
リダは馬の口を取る従者と付き添いの侍女に声をかけた。
だが彼らもヴァレリアの魔力にすっかり心を奪われて、リダの声などまったく聞こえていないようだった。
(いつものこと……)
リダはひとりふらふらと歩き出した。
木々のあいだに、座り心地のよさそうななめらかな平石があった。
リダは吸い寄せられるように、そこに体を投げ出した。
「──きみ」
知らない声に呼ばれた気がしたが、まさか自分に関心を向ける者がいるとは思えない。
そもそも体からは力が抜けて何もできない。したくない。
リダは静かに目を閉じた。
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