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1 姉と妹の狩猟会
貴族たちの晩冬の狩猟会の日が近づいている。
キャシアス侯爵家もその準備で大忙しだ。
侯爵夫妻から厩番まで、邸内のあらゆる者が一日じゅうそれぞれの仕事に追われている。
──ただひとり、十七歳の次女リダをのぞいて。
リダは自分の部屋でぼんやり座っていた。
部屋の至るところに美しく彩色された陶人形や動物の布人形がこれでもかと飾られているが、人間はリダだけだった。
午後のお茶の時間はとっくにすぎ、暖炉の薪も燃え尽きかけている。
それらはすべて侍女たちの仕事だが、全員狩猟会の手伝いに行っていて、まだ戻ってきそうにない。
(みんな、今日も忙しいんだわ)
昨日もおとといも、リダのお茶は忘れられた。
そのことに文句をつけるつもりはなかった。
キャシアス侯爵邸の主役はいつもひとつ年上の姉ヴァレリアで、今回の狩猟会はその姉の晴れ舞台なのだから。
忍び寄る冷気にリダがふるっと震えたとき、扉が軽やかにノックされた。
「リダ、いまいいかしら? ──まあ、寒い!」
澄んだ声と同時に入ってきたのは、そのヴァレリアだった。
リダはとまどいながら出迎えた。
皆が忙しくしているこのときに、忘れられた妹の部屋を訪れている場合ではないはずなのだが。
「お姉さま。どうなさったの?」
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