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見事にヒールで踏み潰し、ブリッジとテンプルが破損していた。
どうやら結花が男の前に回り込んだ時に踏み潰してしまったらしい。
そして、これが、彼の落と物だったようだ。
「早く退けて下さい」
顔面蒼白で固まっていた結花は、シュバッと飛び退く。
「すみません……! 弁償させてください……!」
出勤の初日だと言うのに、なんて幸先の悪いスタートだ。
結花は慌てて眼鏡を拾って差し上げ、バッグからひとまず財布を取り出しながら、何度も頭を下げた。
いや、この場合名刺か? まだ家業のしかないが。頭の中がまとまらない。
「結構です。出勤に間に合いませんし、職場に替えがあるので問題ありません」
だが男は、これ以上関わりたくないと言わんばかり、ボロボロの眼鏡をしまうと結花を無視して先へ進もうとする。
もちろん結花はその腕を引き止め、食らいついた。
「そ、そうはいきませんよぉ……! せめて、ご連絡先とか――」
「……結構です。離してください。迷惑です」
しかし、この男言葉に容赦がない。
とはいえ、結花もこのまま出勤するには、後味が悪すぎる。
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