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プロローグ 破談の見合い
――カコーン カコーン
ししおどしが鳴る高級料亭で、そのお見合いは慎ましやかに行われた。
非日常感漂う風流で平屋造りの、最も庭園眺望のよい座敷。
錦鯉が泳ぐ池のある日本庭園で食事ができるその一室に、桃色の着物をまとう彼女はいた。
――竹本 結花 二十五歳。
幼き頃に母を無くし、世界屈指の大富豪といわれる、タケモトホールディングスの会長を務める父・一郎に大切に育てられてきた愛娘である。
小さな顔に、タレ目がち大きな二重瞼の瞳。
長いまつ毛はマスカラいらずで、整った鼻梁にぷっくりとした唇。
西洋の人形を思わせる美麗な面立ちだった。
小柄で華奢な体は、母の形見であるたおやかさを感じられる桜の散りばめられた着物に身を包んでいる。
破天荒で変わり者だが心優しい父と、
有能で面倒見のよいお手伝いさんたちに囲まれて育ってきた彼女は、
少しばかり猪突猛進なところがあるが、とても明るく前向きで、一郎譲りの優しさを持っている女性だった。
現在も誰もが見惚れるような愛らしい笑顔を浮かべ、相手方にも好印象……のはずだった――
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