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「弁償させてください……!」
強く言い切って、今度はバッグから、メモ帳を見つけて取り出した。
時間が無いなら、連絡先を!
連絡先だけでも!
だが、その瞬間だった。
結花のバッグから、小さなメモ用紙がはらりと落ちて、男の足元に落ちた。
――――あっ。
男がそれを手にすると、目にしてハッと瞳を大きくした。
念の為持参したそれには、T&Yまでの経路と、彼女がお世話になる上司の名前が書かれている。
男は長らくそれに視線を落としたあと、恐ろしく綺麗な面差しで結花を捉えた。
「……あなたは、もしかして――――」
鬼の指導の……いや。
慌ただしい日常の開幕の合図だった。
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