最恐悪神様の誤算愛

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「えー。私事で申し訳ありませんが、このたび愚息である達也(たつや)が結婚する運びとなりましたので、ここでご報告させてください」  その発言で会場がどっと沸き、和江に腕を引かれ咲良は壇上の端まで連れていかれる。お披露目とは聞いていたが、こんな壇上で注目を浴びる方法だとは伝えられていなかった。 「しっかり、みんなの前でお披露目してもらいなさいよ」  和江の言い方はどこか含みがある。その間に、壇上に上がった達也は父親からマイクを受け取って喋りだした。 「皆様、こんにちは。岡林不動産をいつもありがとうございます。父から報告がありましたが、このたび結婚する運びとなりました」  そこで達也の視線がこちらに向けられたので、咲良はおずおずと一歩踏み出した。会場にいる人間の注目が一気に咲良に向けられる。 「神守咲良さんです。彼女は由緒ある神守家の人間ですが、実は高校に入学するまでは孤児院で過ごしていました。彼女の母親は神守家に反発し、駆け落ち同然で家を捨てたんです」  彼の発言にわずかに会場がどよめいた。肝心の咲良は、身の上話を突然他人からされ、戸惑いが隠せない。 「つまり彼女は名ばかりの神守家の人間なんです。彼女がこの白桜学園に通えたのは、僕たち白桜会の有志の皆さんによる苦学生への奨学金のおかげなのに、そういったこともわかっていない。これは骨の折れる結婚だと思いました。本当は同じ神守でも和江さんの方と結婚したかったのですが、振られてしまいまして」  会場からはわずかに笑い声が聞こえ、舞台袖で控えている和江を見ると彼女は勝ち誇った笑みを浮かべている。どうやら彼に咲良の情報を伝えたのは彼女らしい。  ショックを受ける間もなく、相変わらず壇上では、達也が意気揚々としゃべっていた。
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