最恐悪神様の誤算愛

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「しかし彼女の不幸な境遇には同情します。そういった環境で育ったのは彼女のせいじゃない。かわいそうですよね。そんなことで差別してはならないと、彼女と結婚してあげようと思ったんです。僕は心の広い人間ですから」  そこで少し離れたところに立っている咲良に達也がマイクを渡そうと歩みよってくる。  高揚感に満ちた彼の表情に、咲良は逆に恐怖を覚えた。 〝不幸〟〝かわいそう〟〝してあげる〟。  投げかけられた言葉の数々に、咲良は唇を噛みしめる。胸の奥が焼けるように熱くて、湧き起こる感情が怒りなのか悔しさなのか、名前がつけられない 『今あるものを大切にして、前を向いて感謝しながら生きていくの。そうしたら幸せは向こうからやってくるから』  父を亡くしてつらかったとき、母が入院したとき、母のこの言葉で前を向こうと頑張った。母を亡くして孤児院で過ごすようになってからも、両親に誇れるようにと咲良なりに自分の人生を歩いてきた。  私、本当にこのままでいいの?   お互いに愛がないのはわかっている。しかし憐れみを向けられながら、彼が優越感を抱くために見下され続けるのか。  達也は胸ポケットから折りたたんだ用紙を取り出した。 「あなたの欄を記入済みの婚姻届を渡されていたので、せっかくですし、ここにいるどなたかに証人欄に記入してもらいましょう」  まさかここで婚姻届を書く流れにするとは。咲良自身は書いた覚えはないが、おそらく和江あたりが太一に言って勝手に書いたのだろう。  さっきから達也のすることは、すべてパフォーマンスだ。 「あなたとの結婚は本当に不本意ですが……、」  咲良のそばにやって来た達也はペンを取り出し、嫌悪感まみれの声で呟いた。
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