最恐悪神様の誤算愛

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「ごめんなさい、やっぱり私」 「なら、結構ですよ」  マイクを通していないのに、凛とした声が聞こえる。  咲良が振り返ろうとした瞬間、背後から両肩を掴まれ強く引かれる。よろけそうになる咲良を力強い腕を密着した胸板が支えた。  一体、なにが起こったのかと、ちらりとうしろをうかがうと、視界に入った人物に咲良は目を見張る。  光沢のあるブルーグレーのスーツを着た青年が咲良を支えた状態で余裕たっぷりに微笑んでいる。  すらりと背が高く、面々を見下ろす切れ長の目は漆黒で眼差しは力強い。艶のある黒髪に、整った輪郭。端整な顔立ちは目を引く。 「あなたの気持ちはよくわかりました。ですが家のため、自分の懐の広さをアピールするために彼女と結婚する必要はありませんよ。虚栄心は別の方法で満たしてください」  柔らかい口調だが、達也の怒りを買うには十分だった。その証拠に彼の顔は真っ赤になり、眉をつり上げている。  一体この男は何者なのか。混乱する咲良に、男は目を合わせて告げる。 「咲良。こんな男と結婚なんて馬鹿な真似はよせ。俺がやっと見つけたんだ。他の男のものになんてさせない」  真剣な面持ちの向こうにうっすら見える不敵な笑み。男の顔をじっと見つめ咲良は気づく。 「な、ん……」  人間の姿をしているが、彼は間違いなく昨日咲良の前に突然現れ、“悪神”だと名乗った浬だ。 「な、なんだ。お前は! 突然」  場を壊され、達也は体を震わせ激昂する。しかし浬は歯牙にもかけず逆に笑顔を向けた。
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