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「ああ、失礼。遅れて会に現れた挙句、名乗りもせず。私は四鬼浬。残念ですが咲良は諦めてください。俺の方がずっと昔から彼女を想い続けていたんです」
「ふざけるな。お前、うちの父親を誰だと思っているんだ? 今や日本中に名を馳せそうな勢いの岡林不動産の社長で俺は次期社長になるんだぞ!」
憤慨する岡林に対し、浬はにこりと微笑む。温かさなど微塵もない冷たいものだ。
「それは偶然ですね。うちの会社もいろいろと名を馳せているんです。日本どころか、おそらく世界的に」
そこで息子に中央を譲り、少し離れた位置で待機していた岡林氏が呆然と口を開く。
「四鬼って……まさか、あのShihiグループの?」
「ええ。私はShiki.Inc.の代表を務めています」
浬の回答に、会場内がどよめく。Shiki.Inc.は咲良も知っている世界的に有名な大企業だ。金融業をメインに不動産、通信、エネルギー産業と手広くその名を知らない者はいない。
「Shikiグループって代表とか経営者の写真はおろか情報もほぼ知られていないっていって噂の?」
「本当に彼がそうなのか?」
咲良だって信じられない。たしかに、今の浬の身に着けているものは素人目から見ても一流品だ。それにくわえ、彼の堂々たる振舞いに嘘だとは思えない。
それにしても浬は悪神ではないのか。どういうことなのか。理解できず浬を見つめると、彼はにこりと微笑み改めて咲良の肩を抱いた。
「今度こそ絶対に放さない。だから俺を選ぶんだ」
咲良は瞬きひとつできず動けない。昨日もそうだった。浬の目は体も思考もなにもかも止めてしまう。
彼は悪神だ。きっと恐ろしいことを企んでいるだろうし、この行動にも裏がある。
わかっているのに、咲良は小さく頷いた。
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