最恐悪神様の誤算愛

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 内心でため息をつき、余計なことをしてしまったのではないかと後悔する。このままこの中であの小さな命が消えたらと思うと身震いする。ましてや自分のせいで。  それだけは阻止しないと。  捕まえるのは無理だと諦め、せめてなにか食べ物でも持ってこようと考える。そのときなにかがプツリと切れる感覚があった。 「あ」  慌てて手を伸ばすのをやめて首元を確認する。いつもあったソレがないと気づき、さっと血の気が引いた。足元を確認すると濡れた地面に落ちたお守りを見つけ、さっと拾い上げる。 「うそ……」  肌身離さず身に着けていたお守りの紐が切れた。父が残してくれたものだと母から渡され、ずっと大事にしていた。今まで幾度となく自分で紐を取り替えたりしたが、こんな事態は初めてだ。  なにかを暗示しているのか。沈みそうになる思考を慌てて振り払う。  ひとまず一度帰ろうと体の向きを変えようとした瞬間、咲良の世界が歪む。足を滑らせたのだと思う前に暗い空が映り、頭を打つのを覚悟して目を閉じた。  しかし予想していた痛みも衝撃も感じず、咲良はおそるおそる目を開ける。 「なかなかいい様じゃないか」  どこから現れたのか、低く通る男の声が耳に届く。ぼんやりと自分の頭を支え、見下ろしているのは若い男性だった。 「あなた……だれ? 死神?」  どうしてそう尋ねたのか。冗談半分、もう半分は直感的に目の前の存在が人間ではないと思ったからだ。雨とはいえ真っ黒なコート を羽織り、対する肌は透き通るように白く、まるで生気がない。  咲良を映す漆黒の瞳の奥は金が揺らめき、蠱惑的な外貌は目を引くばかりだ。  口角を上げているが、目はまったく笑っていない。親切心で自分を助けたわけではないのはなんとなくわかった。この男から向けられる視線に込められているのは、刺さるような敵意と憎悪だ。それなのに離れる気力がない。 「だとしても死なせやしないさ。お前は俺が――」  その続きは聞こえない。さっきから頭が割れそうな痛みと、耳をつんざくような土砂降りの雨が意識をおぼろげにさせる。男の顔と夕闇が迫る空を目尻に捉え、咲良の世界は黒く染まった。
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