最恐悪神様の誤算愛

3/17

96人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 ふっと意識が覚醒したとき、見慣れた自室の天井が目に入る。ああ、夢だったのかと思い顔を横に向け、咲良は文字通り布団から飛び起きた。 「なっ、あなた、なんで?」 「おいおい、本当にここに住んでいるのか? 犬小屋のほうがまだマシだろう。古くて狭くて、おまけに暗い。今にも倒壊しそうじゃないか」  部屋に視線を飛ばしながらずけずけと物言う男に、咲良はふらつく頭を押さえた。たしかに六畳ほどの広さしかなく天井も低いので、背の高いこの男とっては窮屈に感じるかもしれない。けれど今はそこではない。どこまでが夢でどこまでが現実か。  なぜかびしょ濡れになっていた髪と服は乾いている。この男の仕業なのか。彼は何者でどうやって自分をここに運んだのか。  次々に浮かぶ疑問を口にしたい衝動を抑え、静かに尋ねる。 「あなた、誰? 太一(たいち)さんの知り合い?」  咲良の問いかけに男は皮肉めいた笑みを浮かべる。 「知らないな。神守(かみもり)家でも俺が興味あるのはお前だけだ」  名字を言われ、咲良はさらに混乱する。自分はまったくこの男を知らないのに。その隙に男は咲良に近づき、腰を落として咲良と目を合わせる。  咲良の体がびくりと震え、まるで金縛りにあったかのように動かない。次の瞬間、肩を掴まれ乱暴にうしろに倒された。続けて首にひやりとした感触があり息が止まる。 「俺から奪った力を返してもらうだけじゃ気がすまない。お前は俺が不幸のどん底に突き落としてやる」  生きてきて、様々な感情を向けられてきた。哀れみ、蔑み、疎まれ、見下され……けれどこの男が自分にぶつけてくるものは、今までにない強い怒りにも似た激情だ。 「忘れていても、魂が覚えている。俺の力を奪った女だ」  知らない、わからない。  首を締められているわけではないのに、呼吸ができない。苦しさで顔を歪める咲良に男は笑いながら言い放つ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

96人が本棚に入れています
本棚に追加