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「とはいえ状況から察するに、それなりに不幸な境遇みたいだな。いい気味だ」
そこで咲良は男を睨みつけた。真っ直ぐなら眼差しが向けられたからなのか、男は目を見開く。
「私は……不幸じゃない」
切れ切れになりながらもそこには強い意志が込められている。男は咲良の首に掛けていた手を離した。空気が喉を通り一気に肺に送り込まれ、咲良は咳き込んで庇うように自分の首に手を当てた。
涙目になりつつ上半身を起こし、男への警戒を強める。男は眉間に皺を寄せ、ため息混じりに前髪を掻き上げた。その様子を見て、咲良は再度尋ねる。
「あなた、何者なの?」
答えてもらえないかと思ったが、男は不機嫌そうな表情を崩さないままぶっきらぼうに口を開く。
「俺は浬。かつてお前に力の大部分を奪われた――悪神だ」
「悪神?」
初めて聞く言葉に思わず咲耶はおうむ返しをした。そんな咲良に対し浬は小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「そうだ。高天原の連中とは違う。人々に災いをなし、世を乱すと恐れられている最高神のひとりさ」
説明されて、はいそうですかとにわかに頷くのは難しい。訝しげな咲良に浬は続ける。
「神守の人間は不思議な力を持つ者が何代かにひとり現れ、俺の邪魔ばかりをしてきた」
「私は確かに神守家の人間だけれど、不思議な力なんて……」
なにもない。今まで普通に生きてきた。人ではない存在と接触するのも今回が初めてだ。
「そうだな。俺も急にお前の気配を感じてすぐには信じられなかった」
「もしかして、お守り!?」
咲良は慌てて身の回りを手探りする。物心ついたときから、母に渡されていたお守りを肌身離さずつけていた。それがあのとき、紐が変な切れ方をしたのだ。ただの偶然か。
「なるほど。結界が解けたわけか」
納得する面持ちの浬に対して、咲良はいまだ状況が理解できない。お守りはポケットに入れてあった。それをまじまじと見つめる。
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