最恐悪神様の誤算愛

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「その顔から察するに、お前自身が望んだ結婚じゃなさそうだな」 「そう。神守家と縁のある家の方で、太一さんの知り合いの息子さんらしいよ」  どこか他人事のように咲良は話す。その表情は悲哀を通り越してなにかを諦めたものだった。相手は太一の仕事関係で付き合いのある男で、名前を岡林と言う。 「断ろうと思った。でも……この縁談を受けたら、お父さんをお母さんと同じお墓に入れてくれるって言うから」  両親の遺骨は咲良が持っている。しかし母の遺骨は親戚だからという理由で太一が持っていってしまったのだ。母の遺骨を返してほしいと訴えても、咲良の願いは通らなかった。  墓にも入れないなど、言語道断だと言われると未成年である咲良はなにも返せない。ただ、母と父を一緒にいさせてあげたい。  両親の写真と父の遺骨に謝る日々。  さらに太一は孤児院に話を通して咲良の保護者を名乗り、高校も辞める手続きを勝手にされてしまったのだ。  誰かに相談しても「天涯孤独だったあなたにいいお話じゃない」と相手にされない。むしろ傍から見ると太一は、咲良のために動いているいい大人になってしまっている。  そもそも太一が現れ、咲良の親戚であり保護者と名乗る以上、大学の進学や奨学金など、諸々の書類には保護者である彼の同意と署名が必要だ。  高校を辞めさせられそうになっている現状からもわかる。咲良に逃げ道はない。  一通り話し終え、沈黙が降りてくる。なぜ得体のしれないこの男に身の上話をしたのか。今まで誰にも語ったことはなかったのに。  不思議な気持ちに包まれながらも、どこかすっきりしている自分もいた。
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