最恐悪神様の誤算愛

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「あなたが今の私を見て不幸だと思うのなら、よかったわね、としか」  咲良はわざとらしく肩をすくめ、浬を見遣る。彼は眉をひそめたままだった。 「それでもお前は自分が不幸ではないと言い張るのか」  呆れたように浬が漏らし、それを受けて咲良はふと真面目な顔になる。 「“今あるものを大切にして、前を向いて感謝しながら生きていく”母からの大事な教えなの」  父が亡くなってから短くはあったが、母とふたりで生きてきた。悲しくはあったが不幸ではない。母が亡くなってからも――。 「もしかしたら相手の人が意外にいい人で、おしどり夫婦になれる可能性だってあるかもしれないし」  わざと茶目っ気混じりに、結論づける。未来への希望を捨ててはいけない。生きていたらきっといいことがある。そうやって咲良はこれまでも乗り越えてきた。 「くだらないな。そうなるよう祈っているのか?」 「悪神様に?」  間を置かずに切り返され、浬は一瞬言葉に詰まる。その隙に咲良は彼に笑顔を向けた。 「本当は、あなたが現れたとき、死神だって思ったら少しだけホッとしたの。やっと両親のそばにいけるのかなって」  死にたいわけではない。けれどいつも前を向くのが疲れるときだってある。ひとりだから尚更だ。 「死なせないって言っただろ」  浬の言葉に、沈みそうになった気持ちが浮上する。 「うん、大丈夫。まだそのつもりはないから。マリッジブルーかな?……ありがとう、話を聞いてくれて。なんかすっきりした」  すっかり毒気を抜かれた浬は立ち上がり、咲良から一歩下がった。
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