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「俺を前にすると、たいていの連中は怯えるか怒りに震えるかのどちらかだが……お前は、手足を引きちぎられてもそうやって笑ってそうだな」
「なに、神様なのにそんな野蛮な真似をするわけ?」
さらりと告げられた内容に反射的に返しながら、咲良は自身を抱きしめた。さすがに肉体的苦痛は受け入れられない。
「神なんて気ままで残酷なやつばかりだぞ」
否定はせず、浬は咲良を見下ろして妖しく笑う。
「ま、精々自分は不幸ではないと強がるんだな」
それだけ言い残すと彼の姿は咲良の目の前から忽然と消えた。目の前で起きた出来事を今なら受け入れられる。彼が人ではないのはどうやら本当らしい。
咲良はどっと気が抜け、再び布団に突っ伏した。
明日は早起きして髪のセットと着物の着付けをされる予定だ。お披露目は白桜会……咲良の高校の在校生と卒業生で構成されるパーティーだ。
全国的に文武両道の成績を誇ると有名な白桜学園は、幼稚園から大学まである私立校で、企業経営者や財界、政界に大きな力を及ぼす人間を多く輩出している。
咲良が入学できたのは成績が優秀だったのと、孤児だった環境もある。けれど、ずっと場違いだとは感じていた。
ぎゅっと握りこぶしを作って目をつむる。次にいつもの癖で首元のお守りに触れようとしたが、そこにはないと気づいた。
私は……不幸じゃない。
心許ない気持ちになりつつ写真でしかほぼ記憶にない父と母の姿を思い浮かべ、咲良は必死に自分に言い聞かせた。
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