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翌朝、咲良の調子はどうも調子が悪かった。艶やかな黒髪は着物に合わせて大胆にまとめ上げられ、花の飾りが添えてある。
着物は桜色で、様々な吉祥文様が描かれた値の張るものだ。太一が用意したのか、相手の岡林か。
咲良にとっては、どちらでもいい。それにしても着物はともかく、メイクはどう考えても派手すぎる。
分厚く塗り立てられたファンデーションは口角を上げるとヒビが入りそうだ。まったくもって似合わないと鏡の中の自分を見て思った。
高校の近くにある美容室で着付けとヘアメイクを済ませ、咲良は何度もため息をつく。寒気が止まらずもしかすると熱が上がってきたかもしれない。
とはいえ、今の自分の体調を伝えたところで、太一も先方も今日の段取りを変更したりしないだろう。かえって罵られそうな予感がするのでじっと耐えるだけだ。
昨日雨に打たれたのがよくなかったのかもしれない。なにより突然現れた浬と名乗る悪神に宣告されたのは死ではなく不幸にするというものだ。どう考えてもすがすがしい気持ちにはなれない。
まさかこの体調の悪さも彼の仕業……じゃないよね?
「咲良」
声をかけられドアの方を見ると、現れたのは太一の娘である和江だ。
「あら、素敵。咲良、結婚おめでとう」
まったく気持ちがこもっていない祝辞を無表情で受けとる。白桜会への参加のためもあり、真っ赤なドレスを身にまとった和江はニヤリとお世辞にも上品とは言えない笑みを浮かべた。
咲良と同い年の和江は太一を介して出会ったときから、嫌悪感溢れる眼差しと嫌味ばかりをぶつけられている。
特待生として高校に入学し、友人ができるかと期待した咲良の希望は和江の存在であっさりと打ち砕かれた。
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