木蓮の涙《最終章》

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翌日、午前中に出棺し、明彦は…いよいよ、荼毘に付される。 覚悟は…出来ていた。 明彦の棺が…火葬路の中に運ばれ、扉が閉まった。 火葬場職員によって…今、そのボタンが押された。 麻有実も優子も涙を流し、その場で立ち尽くしていた。 その場居られなかった麻有実が外の空気を吸いに出た。 ミネラルウォーターを手にした優子が後に続いて外に出た。 「ちょっと…寒いね。」 麻有実が持っていたコートを羽織った。 「もうすぐ4月って言うのに…。」 持っていたミネラルウォーターを手渡した。 「…ありがとう。なんか…呆気なかったね?」 「ホント。呆気なかった…。」 火葬場の煙突から…煙が見えた。 「…ばいばい。明彦。」 「私達も…そのうち、そっちに行くからね。」 「ホント…あちこちでミラクル起こす人だった…。」 「私も見た。あれは才能よね…。」 「パリで買い付けした時なんか、初対面でも相手の懐に入る上手さ…あんな自然に出来るなんて…。」 「天性のモノを持っていたんだよ。それを発掘したのは、妻の麻有実でしょ?」 「悔しいけど、私なんかよりも交渉は上手かった。」 「そして…私達は成功報酬を得た…。」 「ねぇ、覚えてる?初めて成功報酬を受け取った時の明彦のあの顔… 笑」 「ハッキリ、覚えてる 笑 成功報酬を貰って怒る人、初めて見た…って言ったから笑」 2人はそう言って煙突から出る煙を眺めていた。 「あの花…って何?」 火葬場の駐車場に咲かれている花が麻有実の目に入った。 「あれは…多分、木蓮かな?」 「木蓮…ねぇ。綺麗だね?」 「綺麗だけどさ…寒い。」 「ホントさむっ!!中に入ろうか?」 「そうね。」 2人は中に入って暖を取ろうとしていた。 しばらくすると…焼き終えた…明彦の火葬路が取り出された。 その姿に…2人は唖然とした。 「…えっ、殆ど…残ってないじゃない。」 「…なんかこう…もっと、骨ってあるよね?」 前に施した…ガン治療の結果…と言える姿は、残されるはずの骨までをも、焼き尽くす。 「さっきまで…居たよね?明彦。」 「…うん。居た。」 殆ど…残されてない骨…その中でも残せそうなモノだけ…数個だけを骨壷に入れた。 「明彦…死んでも、何も残さないつもりなの?」 麻有実は悲しかった。 「本当に…何も残さないで逝くんだね…。」 優子もそう言うしかなかった。 さっきまで…等身大の明彦が居た。それが今では小さな骨壷の中に収まる。 その変わり果てた姿にまた泣き出した。 優子も同じ気持ちで一緒に泣き出した。 何も遺さず行く。それが明彦のポリシーだったのかもしれない。
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