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DISTANCE
「それで…行くんでしょ?」
優子が尋ねた。
「…行ってみないとね…。私なりのケジメ…ってものがあるから。」
「麻有実は…いつもそうだもんね?ケジメに、拘る!」
優子は…分かっていた。分かっていて少し笑った。
「約束した以上、行かないと…居るか?居ないか?その時に分かることよ…。」
運転席の優子が笑みを浮かべて頷いていた。
「居なかったら…連絡して。迎えにくるわ。」
麻有実も笑みで頷いた。
「じゃ…行ってくる。」
「うん。」
麻有実が助手席のドアと後部座席にあったキャリーバックを取り出しドアを閉めた。と同時に助手席の窓を開け、優子が行った。
「麻有実!!待ってると良いね。」
優子の言葉に頷いてターミナルに入って行った。
「今度は…腹括ったようだね…麻有実。うん。麻有実らしい。」
その後ろ姿に決意を感じたのを確認して、パーキングレバーから、ドライブに入れて走り出した。
夜9時25分のフライト…それを逃せば、彼には会えないと確信していたようだ。
オンラインチェックインを済ませていた為、手荷物をセルフサービスの機械に乗せ、預かり番号の書かれたレシートをバッグにしまった。
「この時間でも、人は多いのよね…。」
制限エリア内に進む列に多くの人がいた。
機内持ち込みの荷物の検査。予め、外しておいた指輪やネックレス…ピアスなどを外していた。
「次の方、どうぞ。」
ゲートを潜れば後戻り出来ない事を承知していた。
無事にゲートを潜り、制限エリア内にあったコーヒー店でアイス・アメリカーナを注文していた。
それを飲みながら…滑走路や誘導路の明かりを目の前にしていた。
間も無く、自分が居る場所が飛び立つ機体を眺めていた。
「5年前の最後の連絡…私は覚えている。明彦は…覚えてないかもね…。」
間もなく優先搭乗の案内を知らせるアナウンスが流れた。
カウンターでQRコードを読み込み、ボーディングブリッジを進んだ。日本に留まらず海外を飛び回っていた麻有実はダイヤモンド会員の為、ボーディンググループ1。
夜の便ではあったが、それなりに座席は埋められていた。
ビジネスクラスの窓側に座る。
「ふぅ〜。」
吐く息は緊張の表現。
飛行機の窓側から眺める景色。日本国内便の窓側から見る景色は、どれぐらいだろうか?
両翼あったエンジンの甲高いエンジン音が私の鼓動が高鳴りを助長させた。
「再会の表現?どう表せたら良い?」
呟く一言に緊張は収まらない。ゆっくりと誘導路へタキシングを始めた。
新鮮さ…にも似た緊張感があった。
タキシングが終わり、離陸体制に向け停止した。
轟音と共に、麻有実の全身に加速Gが働く。
フワッと浮いた感触。この瞬間を待ち侘びていた。
向かうべきは…彼の元へ。
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