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それから3ヶ月が経った頃だった。
麻有実は1人で…いや、姿は無いが明彦とのハネムーンに行く事を優子に伝えた。
「真夏になる前に…行った方が良いから。」
そういった麻有実の言葉に快諾し、留守を守る優子。
「やっと…行くんだね?」
優子が嬉しそうに言った。
「うん。やっと行ける様になったから…。」
そう答える麻有実。
「じゃあ…行ってくるね。留守中宜しくね。」
「分かってるって。あ、でも…気をつけて行ってよ。もう、1人じゃ無いんだから。」
「分かってるって。じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
優子は…自分の事の様に嬉しかった。
麻有実はキャリーケースを持ち、羽田空港へと向かった。
その左腕には《ダ・ヴィンチ》が嵌められていた。
「明彦…行くよ。」
そう言って向かう空港。朝9時45分発の飛行機。その航空会社は…麻有実が1番好きだと言う…あの航空会社のファーストクラス。
機内に入って驚いた。ファーストクラスに向かう途中で出会った女性。
白いジャケットを着て、凛として立つその姿。
「ご搭乗ありがとうございます。お久しぶりですね?五十嵐様。」
そう、あの時のチーフパーサーの女性だった。
「あ!!お久しぶりです!!覚えてくれていたんですね?」
「もちろんでございます。さぁ、お席へどうぞ。」
案内されて座った場所は…明彦が座ったであろう場所。機種は同じだが、全く同じとは限らなかった。
そこへ腰掛けると、何も言わずスパークリングワインを少量、麻有実に手渡した。
「これぐらいの量でしたら、差し支えないかと…。」
麻有実への配慮からだった。
「ありがとうございます。」
生前に、明彦が好んでいたスパークリングワイン。
久しぶりに飲んだ。
「うん。美味しい。」
左手の《ダ・ヴィンチ》を外し、窓へ向けていた。
「明彦…飛ぶよ。良い?」
ドアが閉められたアナウンスがされた。ゆっくりと動き出す機体に、明彦の想いも…全ての想いを乗せて。
轟音と共にゆっくり、加速を始めた。
「久しぶりだから、ちょっと緊張する。」
そう呟いた。
みるみる加速して、外の景色が遠く小さくなっていく。
「明彦…久しぶりだね?どう?」《ダ・ヴィンチ》にそう言った。
そこからしばらくフライトをして、向かうのは…イギリスのヒースロー空港。明彦が初めてファーストクラスに乗ったあの空港だった。
思い出達が甦ってきた。3時間半のトランスファーの時間があり、ヒースロー空港から…明彦の待ち焦がれていたであろう…『レオナルド・ダ・ヴィンチ・フィウミチーノ空港へ到達した時には、午後11時になっていた。
久しぶりのフライトもあってか、すっかり疲れ切っていた。
「久しぶりだから、疲れて寝るけど…良いよね?」
そう言って眠りについた。
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