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「だんだんと…弱っていく姿なんか、見せたくなかったし、胃ガンになった…なんて言ったら…麻有実が飛んで来るなぁて思った。」
「当たり前でしょ!!来るわよ!!」
「お前の夢だった…美術のバイヤー?それ捨てて来られてもな…俺の病気のせいで、諦めさせちゃ悪いって思って…それで黙ってた。」
麻有実は座り込んだまま、何も言わなかった。
「放射線治療や化学療法…色々やってたら、髪がぬけちゃってさ…丸坊主だよ。な?笑えるよな?」
頭を丸くする素振りして見せていた。
「…ぜんっぜん、笑えないんですけど…。」
「とりあえず…5年。その間、再発しなかったら大丈夫だって医者に言われたから。それで連絡した訳だ。」
「一言知らせるぐらい出来たじゃない!!」
「だからぁ…麻有実に心配掛けたく無かったんだって。」
「とりあえず、知らせてくれれば…看病しながらだって出来る仕事でしょ!?何も知らせない。何も分からない。あー、私は捨てられたんだって…思ってた!!」
麻有実のその言葉に冷静を装いながらも淡々と話し始めた。
「…時々、血を吐いてる俺の姿を見て、平然と仕事出来たのか?毎日毎日、副作用で苦しんでる俺を見て、海外に飛んでいけたのか?起きる度に、髪の毛が抜け落ちて、前の俺の顔じゃ無くなってたんだぞ。それでも、平然と出来たか?」
明彦の目に涙が浮かんでた。それを見て、麻有実も涙を浮かばせてた。
「このまま、知らせないで麻有実の好きな仕事を優先させた方が良い。それは俺の勝手な判断だったかもしれない。でもな、見せたくない姿だってあるんだよ。寝る時が一番!!怖かった。朝、ちゃんと目が覚めるのか?とか…明日の朝、俺は生きてるのか?とか…。その恐怖と毎日、付き合わなきゃいけなかった。ビクビクしてる姿なんか…見せられるもんかよ…。」
座り込んいた麻有実が明彦に寄っていく。
「今、ちゃんと生きてて良かった…。」
「…あぁ、とりあえず、生きてる。」
「髪の毛も生えてきてる。」
「あぁ…カツラじゃねーからな?」
麻有実はそのまま…明彦を抱き締めキスをした。
「なんだよ…涙でグシャグシャじゃねーかよ。」
「るっさい…もう、泣かせたのは誰よ?」
「勝手に泣いてんだろーが…。」
「誰のせいで、こんなに泣いてると思ってんのよ…。」
「…とっくに、良い男見つけて、結婚してるかと思ってた。」
「そうしたかったら…とっくにしてたわよ!!」
「…ゴメンな…ゴメン。」
「分かったから…生きてて良かった。」
明彦と麻有実は2人で抱き合い、またキスをした。5年ぶりのキスは涙の味しか、しなかった。
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