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麻有実は一人、ベッドで起き上がり、タブレットを見ていた。その横で明彦は、ぐっすりと寝ていた。
明彦が寝返りをして、目を覚ませた。
「...仕事か?」
「ゴメン...起こした?」
「何を観てるんだ?」
「ん?今度、イタリアのフィレンツェに行くんだけど...複製画でも構わないって言われて...探してるの。」
明彦も起き上がり、タブレットに目をやった。
「これ... サンドロ・ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』よ。日本にもあるんだけど、出来るだけ大きなモノを探してるの。」
「これ...観たことあるやつだな。」
「そうね...有名だからね。誰もが一度は、目にしてるんじゃない?」
明彦の手が...麻有実の胸に伸びた。
「俺的には...こっちのヴィーナスの方が...好きだけどね...。」
「その傷口...開いてやるわよ!」
そう言われながらも...麻有実の胸を撫でていた。
そんな時、優子から電話が鳴った。
「あ、もしもし。優子?」
『で?どうだったの?野垂れ死に野郎に逢えたの?』
優子には、大体の察しはついていた。
「野垂れ死にどころか...本当に死にかけてたらしいわ。」
『へぇ...死にかけてらしいって...事故か何か?』
「詳しいことはそっちに戻った時にでも話すから。」
『分かった。その死にかけた人にもよろしく言っておいて!!』
「じゃあ。」
電話を切りスマートフォンを傍らに置いた。
「誰だったんだよ?」
「優子よ。」
「優子?...誰だっけ?」
「ガンで記憶喪失にでもなったの!?東 優子よ!忘れたの?」
「あぁ...隣の組だった東だな?まだ、交流あったんだな?」
「交流も何も...私の事務員兼、顧客管理兼バイヤーをやってくれてるんだから。」
それを聞いて、撫でていた手が止まった。
「麻有実...どうゆうことなんだ?」
「どうゆうことって?」
「2人で...仕事をやっているのか?」
「そうよ。彼女は、しっかりしているからね。」
「ということは...こうやって逢っていることも...。」
「当然、知ってる。空港まで送ってくれたんだから。」
「何か言っていたのか?俺のこと。」
「言ったでしょ...野垂れ死んでるんじゃないかって。その死にかけた人にもよろしく言っておいてって。」
「...アイツめ!!勝手に殺してたんだな?」
「まぁ...5年も音沙汰なしだったんだから、そう言われても仕方ないわよ。」
「東か...懐かしいな。」
「私は、いつも会っているから、懐かしいなんて思ってもいないけどね。」
「俺を目の前にすると...首を絞められるだろうな?」
「それで済むかしら?」
麻有実はまた、サンドロ・ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』の複製画を捜し出し始め、明彦もまた...麻有実の胸を撫で始めた。
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