164人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日の夕方の便で、そのままフィレンツェまで向かうと決めていた麻有実。
一度、羽田まで戻り、そこからドイツのミュンヘン。ミュンヘンからフィレンツェに行く便を予約していた。
「乗り継ぎ2回か...凄いな...。」明彦が感心していた。
「トランスファーを出来るだけ短くしてるの。時間は有効的に使いたいからね。」
「でも、トランジットと違って、乗っている便が予定よりも、遅れることだってあるんだろ?」
「もちろん、あるわよ。その場合は走って間に合うのなら、良いけど...。」
「けど...?間に合わなかったら?別の便に変更してもらうだよな?」
「そうね...その時ばかりは、私には何も出来ないからね。」
「それにしても、順調にトラスファー出来たとしても...フィレンツェに到着がその翌日の朝なんだろ?ほぼ、1日を移動に使うなんて...。」
「久しぶりの長距離移動だから、ワクワクするわ。」
「そういう所は昔のままだな?」
明彦の知っている限り、麻有実は高校時代からそうであった。
「ねぇ、青春18きっぷで行ける所まで...行ってみない?」
時刻表片手に、数人の同級生数人と知らない地方に、普通電車に乗ってよく行っていた。もちろん、明彦もその中の1人であった。
「みんな!!次の電車の乗り換えまで5分しか無いから、ダッシュするからね!!」
それに付き合わされていた明彦。当時を思い出させていた。
「明彦…どうするの?」
「…どうするって?」
「これからよ…。これからも、ここに残って暮らすの?仕事は?」
唐突に聞かれて、何も言えなかった。
「まだ…何も決まっちゃいないさ。仕事も、とうに辞めてしまってるし。なる様になるんじゃないか?」
「…離れないって…言ったよね?」
「…まぁ、言ったけど、所在が分かったら、安心しただろ?」
「へぇ…じゃあ、あの"離れない"っていう言葉は…とりあえず…って事なのね?」
「とりあえずもなにも…一緒に行く事なんか出来ないだろ?」
「どうして?」
「どうしてって…。」
「一緒に来てよ。」
「…おいおい。何を言い出すやら…。」
「嫌なの?」
「嫌とかじゃなくて…その…。」
「…あぁ、お金の事ね?それなら、私が負担するから。それなら、良いでしょ?」
「正気か!?フィレンツェの往復費用って…。」
「それぐらいのお金は有りますから。離れないって言葉…本当なら、一緒に来てよ。」
「パスポート…。」
「それぐらいは持ってるでしょ?昔、グアムに行ってた話してたの…分かってるんだから。」
「…多分、バッグの中にあるはずなんだけどな…。」
そう言うと麻有実はさっさと着替え始めた。
「おい…今からかよ?」
「当たり前でしょ?後でバタバタするのは嫌なの。ほら、早く服を着なさいよ。」
明彦は麻有実に言われるがまま、服を着てホテルを出た。
「余韻ってもんがあるだろ…。」
「余韻なら…まだまだ…時間がたっぷりとあるから…。」
麻有実の笑みが…怪しかった。
最初のコメントを投稿しよう!