DISTANCE

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翌日の夕方の便で、そのままフィレンツェまで向かうと決めていた麻有実。 一度、羽田まで戻り、そこからドイツのミュンヘン。ミュンヘンからフィレンツェに行く便を予約していた。 「乗り継ぎ2回か...凄いな...。」明彦が感心していた。 「トランスファーを出来るだけ短くしてるの。時間は有効的に使いたいからね。」 「でも、トランジットと違って、乗っている便が予定よりも、遅れることだってあるんだろ?」 「もちろん、あるわよ。その場合は走って間に合うのなら、良いけど...。」 「けど...?間に合わなかったら?別の便に変更してもらうだよな?」 「そうね...その時ばかりは、私には何も出来ないからね。」 「それにしても、順調にトラスファー出来たとしても...フィレンツェに到着がその翌日の朝なんだろ?ほぼ、1日を移動に使うなんて...。」 「久しぶりの長距離移動だから、ワクワクするわ。」 「そういう所は昔のままだな?」 明彦の知っている限り、麻有実は高校時代からそうであった。 「ねぇ、青春18きっぷで行ける所まで...行ってみない?」 時刻表片手に、数人の同級生数人と知らない地方に、普通電車に乗ってよく行っていた。もちろん、明彦もその中の1人であった。 「みんな!!次の電車の乗り換えまで5分しか無いから、ダッシュするからね!!」 それに付き合わされていた明彦。当時を思い出させていた。 「明彦…どうするの?」 「…どうするって?」 「これからよ…。これからも、ここに残って暮らすの?仕事は?」 唐突に聞かれて、何も言えなかった。 「まだ…何も決まっちゃいないさ。仕事も、とうに辞めてしまってるし。なる様になるんじゃないか?」 「…離れないって…言ったよね?」 「…まぁ、言ったけど、所在が分かったら、安心しただろ?」 「へぇ…じゃあ、あの"離れない"っていう言葉は…とりあえず…って事なのね?」 「とりあえずもなにも…一緒に行く事なんか出来ないだろ?」 「どうして?」 「どうしてって…。」 「一緒に来てよ。」 「…おいおい。何を言い出すやら…。」 「嫌なの?」 「嫌とかじゃなくて…その…。」 「…あぁ、お金の事ね?それなら、私が負担するから。それなら、良いでしょ?」 「正気か!?フィレンツェの往復費用って…。」 「それぐらいのお金は有りますから。離れないって言葉…本当なら、一緒に来てよ。」 「パスポート…。」 「それぐらいは持ってるでしょ?昔、グアムに行ってた話してたの…分かってるんだから。」 「…多分、バッグの中にあるはずなんだけどな…。」 そう言うと麻有実はさっさと着替え始めた。 「おい…今からかよ?」 「当たり前でしょ?後でバタバタするのは嫌なの。ほら、早く服を着なさいよ。」 明彦は麻有実に言われるがまま、服を着てホテルを出た。 「余韻ってもんがあるだろ…。」 「余韻なら…まだまだ…時間がたっぷりとあるから…。」 麻有実の笑みが…怪しかった。
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