3 花が咲いたぞ!

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3 花が咲いたぞ!

「はぁぁああ~、昨日もガイウス様とお話しできなかった……」  力ない呟きが、ため息と共にセレーネの口から零れ落ちた。  ガイウスの屋敷に身を寄せてから、十日。  婚約者の役に立ちたいという彼女の思いとは裏腹に、ガイウスとの距離は一向に縮められていなかった。 「やっぱり、私と顔を合わせるのが嫌なのかしら……」 「そんな! 旦那様ったらひどすぎます!」  彼女の弱音に我がことのように憤慨しているのは、すっかり仲良くなった侍女のミアだ。  粗忽(そこつ)なところはあるけれどいつも真っ直ぐな彼女は、セレーネのために本気で腹を立ててくれている。  それだけで、セレーネの心は間違いなく救われていた。 「セレーネ様の、一体どこに不満があるというのでしょう!? 屋敷だって、こんなに素敵になったというのに……」 「それは私が勝手にやっていることだから……でも、心配してくれてありがとう、ミア」  ミアの言う「屋敷が素敵になった」というのは、セレーネが最近取り組んでいる屋敷の模様替えのことを指している。  もともと、この屋敷はガイウスが騎士団長の地位を授かったときに合わせて贈られたものだ。使用人もその際に雇われたものがほとんどで、セレーネが来るまで女性の使用人は一切居なかった。  そんな彼らが主人の意向に従い実用性重視でととのえた屋敷は質実剛健で……言葉を選ばずに言うならば、明らかに殺風景であった。  そこに花を活けたり、カーテンを替えたり、自作のレースを飾ったりと、セレーネは少しずつ華やぎをもたらしていっているのである。  少なくともガイウス以外の使用人の反応は良い。……彼がこの変化をどう思っているのかは、わからないけれど。  差し出がましい真似だということは、わかっている。  でも、どうせ嫌われるのならできることをしてから嫌われたい。
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