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一方の書斎では。
セレーネたちの微笑ましい会話とは真逆の、緊迫した空気が流れていたのであった。
険しい顔で腕を組み、ガイオスは相手を射殺しそうな鋭い視線を向ける。
ぐわりと吊り上がった眉に、獣のように見開かれた赤い瞳。その凶悪な面構えは、亡霊も裸足で逃げ出すであろうほどに恐ろしい。
だというのに、そんな視線を向けられていることをまるで意に介さずジルは微笑んだのであった。
「良かったですね、旦那さま。婚約者さまが素敵な方で」
「お前は……口の利き方に気をつけろと言っただろうが!」
呑気なジルの言葉に、ガイウスの叱責が飛んだ。それに多少首を竦めながらも、ジルは平然としたままだ。
長くガイウスに仕えている彼は、今更その程度の大声に怯むことはない。
「もちろん、私も自分の失言については反省しておりますとも。ただ、旦那さまがあまりに口下手で話が進まないために私が口を挟まざるを得なかったという状況も、少しは理解していただきたいのです」
「…………」
その言葉に、ガイウスは気まずそうに目を逸らした。ジルの言うことが一理あることも、実のところ理解しているのである。
どうも自分は喋るのが苦手で、言葉が上手く出てこない。そんな口数が少ないところが人に怖がられる原因のひとつだと、自覚はしているのだが……。
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