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これまでガイウスと婚姻の話が持ち上がった女性たちは皆、実際の彼に出会った瞬間に悲鳴を上げたり泣き出したりと話にならなかった。
それを思えば、彼と理性的に言葉を交わしていたセレーネという存在のなんと貴重なことか。
そんな彼女であれば彼と心を通わせることもできるのではないかと、ジル個人としては非常に期待しているのだが、肝心の主人がこの調子では……。
小さくため息をつき、ひとまずのところは諦めることにする。
これから彼らは結婚するのだ。いずれ、時が解決の方向に動いてくれることだろう。
「かしこまりました。ですが、毎日セレーネさまの歌をお聞きになることだけは怠らないでくださいね」
「ああ。彼女には悪いが、俺はそれが楽しみでならない」
ガイウスはそう言って獰猛な笑みを洩らす。
……いや、本人としては微笑みのつもりなのだが、どうしても生来の凶悪な顔つきはそれを柔らかな笑みにはしてくれないのである。
「ええ。私もです」
そんな誤解を受けやすい主人に同情の念を覚えつつ、ジルは深く頷く。
――セレーネの気持ちなどつゆ知らぬガイウス。
そうして二人の気遣いはすれ違ったまま、新しい生活は始まったのであった。
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