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そんな二人の距離が近づくきっかけになったのは、なんてことない日常の一幕からであった。
「その。それは一体、何だ。ただの棒っきれにしか見えないが」
ぶっきらぼうな声。珍しいガイウスからの問いかけに、セレーネは静かに微笑む。
「それはツェリムの枝です。よく見てください。蕾がついているでしょう? もう少しで咲きそうだったのに風で落ちてしまったのが可哀想で……こうして活けてあるのです」
「花を飾るのはわかるが、蕾なんて見ても楽しくないだろう」
不機嫌そうな声色だが、彼が別に気分を損ねているわけでないことはこれまでの態度からわかっている。
だからセレーネは、その言葉にゆったりと首を振った。
「蕾というのも楽しいものですよ。毎日少しずつ色がほころんでいる様子を眺めるのは、とても良いものです。いつ咲くのだろうと楽しみながら毎日を送れますし、いざ咲いた時は何にも代えがたい喜びを感じられます」
「……そういうものか」
不思議そうに首を捻るガイウスにセレーネは頷く。
「ええ。このお部屋に飾っておきますから、気が向いたらガイウス様も様子を見てあげてくださいな」
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