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それから日を追うごとに、枝の蕾はどんどん膨らんでいった。
最初は枝の一部にしか見えなかった見た目も、徐々に花を予感させる色がこぼれていく。
毎日のゆっくりとした、でも着実な変化。
興味がないと思っていたはずのガイウスも、いつしかその開花を心待ちにするようになっていた。
――そして。
「セレーネ! 花が咲いたぞ!」
ある日の朝――つまり本来なら彼と会うことのない時間に、興奮したガイウスが彼女のもとを訪れたのであった。
「花というのはいっせいに咲くのだな。重みで花瓶が倒れてしまいそうなほどに満開だ! 蕾の色から紫の花を予想していたが、桃色の、可愛らしい花がいっぱい咲いている!」
野太い声で、ガイウスは子供のようにはしゃぐ。
初めて眼にするガイウスの笑顔は、セレーネの予想よりもずっと愛らしかった。
しかし、ほら行こう、とセレーネに手を伸ばしたところで、彼は冷静さを取り戻したらしい。
ぎくり、とその身体が強張り、「しまった!」という感情が露骨に顔に出る。
「行きましょう」
そんな彼の反応に気づいていないフリをして、セレーネは彼の手を取った。
怯えたように引っ込めようとする彼の手を、彼女はギュッと握って離さない。
振り払われるかもしれないと思ったが、しばらくして意外にも彼はおずおずとその手を握り返してきてくれて。
セレーネはそっと唇を緩めたのであった。
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