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ガイウスの呼びかけに、セレーネは嬉しそうに笑みをこぼす。
そっと彼の顔を見上げる彼女とガイウスの視線が、導かれるように合わさった。
彼の目をとらえたまま、セレーネは静かに口を開く。
「はい。……では、申し上げますね。ガイウス様は自分のために時間を使えと言ってくださいましたが、私のこれまでの行ないはすべて自分のやりたいことに取り組んだだけです。どうぞ、お気遣いなく」
「だが……」
ガイウスが反駁しようとするのを制して、セレーネは「そして」と、言葉を続ける。
この絶好の機会を逃すわけにはいかない。今こそ、お互いの本音を晒す時だ。
その結果、たとえ自分が傷つくこととなっても……。
「そして、私はできることならガイウス様に喜ばれたいとも思っております。その……ガイウス様がお嫌でなかったら」
「嫌なわけがない!」
反射的に怒鳴るような否定の声を上げてから、ガイウスは信じられないと目を瞠った。
「アンタは……セレーネは、俺が怖くはないのか……?」
「ええ、ちっとも。むしろ、お優しい方だと思っております。だからこそ、仲良くなれたらと」
硬直するガイウスに、セレーネはそっと手を伸ばす。
その手が自分の頬に触れる冷たい感触を感じながら、ガイウスは勘違いではないかと何度も自問自答を繰り返していた。
――目も耳も、常人より優れている自覚はある。
それなのに彼女の言葉が、触れられているこの感触が自分の作り出した都合の良い幻にしか思えない。
「……ガイウス様?」
セレーネが自分の名前を呼ぶ声が素通りしていく。
「ガイウス様、大丈夫ですか? ガイウス様――!」
駆けつけたジルに頬をはたかれるまで、ガイウスは茫然自失の態でその場にずっと立ち尽くしていたのだった……。
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