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らしからぬ主人の姿に呆れはしたが、とはいえジルも彼の言葉に特に異論はない。何度も頷いて同意を示す。
しかし尽きぬ彼の賛辞に、この話はどこに行くのだろうという不安がチラリとよぎった。
「最後に、彼女の性格だ! あんなに奥ゆかしく淑やかでありながら、彼女は豪胆でもある。周囲から恐れられる俺を前にして、目を逸らすこともなく笑いかけてくれるんだぞ?」
「逆に旦那さまがタジタジになってます姿をよくお見かけしていますね」
ジルの減らず口を完全に無視してガイウスは「だからこそ」と話を続ける。
「不思議でならない。何故彼女は歌う時にあんなに悲しそうな顔になる? 何故歌い終えた後に怯えた表情を浮かべる? 俺では力になれないのだろうか……」
「それを心配するなら、旦那さまはまずセレーネさまへの態度を見直すべきです」
彼の懸念に対して、ジルが言い放ったのはシンプルな忠告であった。
数十年仕える主人とは、気安い関係だ。世間では凶悪騎士団長と畏怖されるガイウスだが、そんな彼もジルにしてみればいまだに「可愛い坊ちゃん」でしかない。
かねてから問題視していたことを、良い機会だとばかりに挙げはじめる。
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