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何を言われるのだろうと身を縮めるセレーネに、ガイウスはきっぱりと首を振る。
「違う。恐縮する必要はない。ただ、気になっただけだ」
迷うように瞳を揺らしてから、俺は、とガイウスは続ける。
「奇跡の効果を除いても、セレーネの歌を気に入っている。だが、セレーネが辛いのなら、無理に歌う必要はない。毎日の奇跡のおかげで、俺の呪いもほとんど痛まなくなった」
「ガイウス様……」
彼の口から出た予想外の言葉に、セレーネは息を呑む。
たどたどしく不器用な言い方であったが、彼の言葉は嘘のない誠実な気遣いに溢れている。――それが、彼女の心を打った。
「私、そんなに嫌そうに歌っていますか」
「嫌そうというより、辛そうだ。そして、怯えている。俺が原因であれば……」
「いえ、違います」
ガイウスの弱気な言葉を、セレーネはすかさず否定した。優しい彼に、これ以上負い目を感じてほしくはないから。
ひと呼吸おいてから、彼女はもう一度口を開く。
「ガイウス様に歌を捧げることは、私にとっても喜びです。それは、間違いありません。――私の歌を褒めてくれるガイウス様の言葉を疑っているわけではないんです。でも、過去の経験から私はどうしても自分の歌に自信が持てなくて……」
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