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言葉にしながら、胸の前でギュッと手を握りしめた。
血の回らなくなった指先が白く染まり、小さく震える。それを、どこか他人事のようにセレーネは見ていた。
心の柔らかい部分につけられた、醜い爪痕。
意識することすら嫌で、ずっとそれと向き合うことを避けていた。目を逸らし続けていた。
――でも、本当は誰かに聞いてほしかった。
聞いてほしい「誰か」に出会うことなんて、今までなかったけれど。
でも、今。
無口で顔が怖くて……そして不器用な優しさを持つ彼に聞いてほしいと。――そう思ったことに、自分でも驚きを覚えている。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「ガイウス様もご存じのとおり、私は婚約者に捨てられた女です」
そっと吐き出した声は震えていて。
でも、ガイウスを見つめるその視線を逸らすことはしなかった。
何か言いかける彼を制して、セレーネは話を続ける。
「前の婚約者であるマシュー様はこの婚約に乗り気ではありませんでした。これは、彼の叔父である総司令官のグルディア様が強引に結んだ話ですから」
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