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総司令官は騎士団長の上司にあたる立場になる。グルディアのことは、ガイウスもよく知っていた。
今回のセレーネとの婚約も、実のところ彼の口利きによるものだ。
聖女を騎士団の身内に取り込んでおくことは重要だから、と半ば強引にマシューの後釜を命じられたのだ。
つまり彼は、自分のあつらえた婚約が失敗に終わった尻拭いをガイウスに押しつけたこととなる。
……まぁ、今ではガイウスもこの縁に感謝をしているのだけれど。
「何故、総司令官殿はセレーネを……」
「当時、マシュー様は訓練中に大きな怪我を負ってしまったのです。私の声で痛みを治せるなら、と考えたのでしょう」
聖女の奇跡は、本来そう簡単に手に入れられるものではない。大概は聖女認定された時点で有力者に囲い込まれてしまうからだ。
だからこそ、このタイミングで聖女として現れた婚約者のいない彼女は、これ以上ないほどに都合の良い存在だったわけだ。
でも、とセレーネは悲しげに続ける。
「残念ながら、私の聖女の力は微々たるモノでした。怪我を治す力なんて、到底なかった……」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
――その時のことを、セレーネは鮮明に覚えている。
初めての顔合わせの時から、マシューは無理やり引き合わされた彼女に否定的であった。
「こんな貧相な女が、僕の婚約者だって? 最悪だ」
聖女の装いで現れた彼女に向かって、マシューは悪しざまに言い放つ。
そんな彼の冷たい反応に、セレーネは思わず顔を伏せた。
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