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自身の恰好が顔合わせに相応しくないものであることは、わかっていた。けれど、聖女の装い以外に彼女はちゃんとした服を持っていないのだ。
実家である伯爵家で、妾腹である彼女の環境はあまり恵まれたものではなかった。
銀色の髪は櫛を通しただけで結うこともせず、肩に垂らしただけ。化粧っ気もなく、肌もかさかさで荒れている。
そんな醜い彼女と婚姻することになったなんて、遊び人として名高いマシューにとっては屈辱以外の何物でもないだろう。
「ちっ、叔父貴の命令とはいえ、相手がこんな冴えない女とはな。……それじゃ、さっさと歌えよ。それしか役に立たないんだろ」
高圧的な言葉にびく、と身体が震える。
彼の不快そうな視線に耐えながら、セレーネは必死に歌いはじめた。緊張から喉が引き攣る。それでもかすれた声で必死に一曲終えて――。
「下手くそだな」
マシューが言い放ったのは、そんな辛辣な評価であった。
「音程もメチャクチャだし、声も出ていない。そして何だ、その曲は? 子供向けの歌なんか歌って、僕を馬鹿にしているのか?」
「いえ、そんなつもりは……」
やんわりと否定をするが、マシューは彼女の反応など気にも留めない。
「まぁ確かに、多少は痛みがマシになったような気はするが……その程度だな。傷が治るようにも感じないし、力としては下の下。くそっ、能無しが」
吐き捨てるように言って、マシューは背を向ける。
最後に放った一瞥は、氷の矢のように冷たいものだった。
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