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――その後のマシューとの顔合わせも、似たようなものだった。
一応痛み止めとしての役割は認めているらしく、セレーネは定期的に彼に呼び出されることとなった。
でも、婚約者としての交流などそこにはない。彼が何かをしている横で、ひたすら歌わされるだけだ。時にマシューは、恋人とおぼしき女性を侍らせていることもあった。
さらに彼女の心を削ったのは、彼の反応だ。
歌っている彼女の横で聴くに耐えないと言わんばかりに首を振ったり、溜め息をついたり。
そして歌い終えたときには決まって「下手くそ」とボソッと呟くのだ。
もともと、歌を歌うことは好きだった。その時だけは、辛いことを忘れられたから。
でも、マシューの態度は徐々にセレーネの気持ちを蝕んでいった。
そして気がつけば、歌を披露することに震えるほどの苦手意識を感じるようになってしまっていたのである。
そんな彼との日々は、唐突に終わりを迎えた。
「お前との婚約を破棄する」
最後までセレーネと目を合わせることなく、マシューは一方的に宣言した。
「ようやく筆頭聖女の奇跡を受けることができた。お前とは違う、本物の奇跡だ! ……これで、俺の怪我が治る。お前ももう、用済みだ。毎回毎回クソみたいな時間を取らせやがって」
「そんな……」
失意に沈むセレーネを、マシューはさらに追い打ちをかける。
「ああ、次の婚約のことなら既に叔父貴に相談してあるから安心しろよ。お前の次の婚約者は、新参騎士団長のガイウスだ。血に飢えた悪鬼と名高い凶悪騎士団長を、その歌で慰めてやったらどうだ?」
――そうして、急遽セレーネとガイウスの婚姻は結ばれたのであった。
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