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「これは、魔物にやられたのですか。なんてひどい、呪いの跡……」
「ああ、三ヶ月前の傷だ。魔物は屠ったが、この傷はいつまで経っても治らん」
「怪我には慣れているはずの旦那さまが、ここ最近はずっとこの傷の痛みに苦しめられているのです」
「ジル、黙ってろ」
横から口を出した執事に、今にも噛みつきそうな声でガイウスは唸る。
しかし、そんな殺気立つ彼の声を気にせず、ジルと呼ばれた執事は言葉を続けた。
「いいえ、黙ってはいられません。旦那さまのお身体に関わることなのですから! 聞けば、魔物の呪いによる苦しみは一生涯ついてまわるとのこと。私も心を痛めていたのですが、聖女さまのお力があれば……!」
「その口を閉じろと言ってるんだ。こっちの勝手な都合を押し付けるな」
「いえ、やらせてください」
押し問答する二人を前に、迷いなくセレーネははっきりと答えた。
常に相手を睨んでいるような吊り上がり気味のガイウスの目が、驚きに丸くなる。その反応に微笑みをこぼしながら、セレーネは背筋を伸ばした。
「どこまでお役に立てるかわかりませんが、私の歌を捧げましょう」
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