5 歌うのは、嫌いか

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「マシュー様の言葉も、もっともなんです。私は音楽をちゃんと習ったわけでもありませんし、歌える歌だって母が聴かせてくれた子守唄や童謡だけ。ちょっとした奇跡をもたらせるから、歌の聖女と呼ばれてはいますが……。だから、ガイウス様に喜んでいただけるのは嬉しいんですけど、歌に関しては自信が持てなくて」 「そうか」  彼女の長い独白を聞き終えたガイウスは、簡潔にひと言述べた。  普段は吊り上がっている眉を悲しそうにひそめ、彼は傷だらけの腕をそっとセレーネに向ける。 「……辛かったな」  ぽん、と優しく肩に手が回された。  自分のではない温かな体温と、柔らかなほっとする香り。 「いえ、辛かったというわけでは……」 「アンタは……セレーネは、よく頑張った」  ――何故だろう。別に、特別なことを言われたわけではないのに。  そのひと言に、つんと鼻の奥が切なくなった。はく、はくと息が乱れる。  その呼吸は、やがてしゃくりあげるような声になっていって。  婚約破棄をされてから、セレーネは初めて声を上げて泣いたのだった。
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