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やがて、いつまでも続くかと思われた歌が終わる。
店の中が喝采に沸き、そして何事もなかったかのように落ち着いていく。
――後に残るのは、先ほどと変わらない賑やかで騒がしい酒場の雰囲気だ。
でも、その中に一粒の清涼剤のように彼女の歌の気配が残っているように思うのは、セレーネの思い過ごしだろうか。
「団長さん、久しぶりだねぇ!」
「ひゃっ!?」
歌のなくなった空気に寂しさを覚えながらデザートを食べていたところで、突然親しげな声が掛けられた。
「待たせちゃって、すまないね。いやぁ、あんだけ歌うとお腹が空いちゃってさぁ」
そう言いながら空いている椅子にどっかりと腰を掛けたのは、先ほどまで歌を披露していた美しい女性。
目立つ朱色のドレスは茶色の外套でほぼ隠されているが、匂い立つような彼女の色香はそのまままだ。
「ああああの、すっごい良い歌でした! 身体の中が直接揺さぶられるような感じで、私すっごく感動して……その、ありがとうございました!」
慌てて口の中の甘味を飲み込んでから、セレーネは立ち上がって歌の感想を伝えようとする。
でも緊張と興奮で、出て来る言葉は言いたいことの一割にも満たないような切れ端ばかりだ。
それなのに、女性は目を細めて嬉しそうに笑う。
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