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7 俺と、結婚してほしい
月日はゆっくりと、だが確実に流れていく。
セレーネの歌う歌は徐々にティナから習ったものが増えていき、そして歌の後に笑顔を見せることも多くなっていった。
時には、ティナを招いて歌ったり。あるいはガイウスと二人で流行歌を口ずさんだり。
気取らない歌の時間は、二人の仲をより親密にしていく。
そして。
「聞け、ジル! とうとう婚姻の承認が下りたぞ! これでもう、いつでもセレーネと結婚できる!」
「おめでとうございます、旦那さま! しかしその知らせは、私なんかよりも真っ先にセレーネさまに伝えてあげた方が良いのでは?」
――ガイウスの元に、ようやく待ち望んでいた福音がもたらされたのであった。
主人とともに喜びに目を細めながらも、ジルは冷静な指摘を口にする。
彼にしてみれば、至ってもっともな言葉だ。しかし、何故かガイウスは真面目な顔になって、それにキッパリと首を振る。
「その前に、お前に話しておきたいことがある」
そう言ってジルを手招きすると、ガイウスは自分のシャツをゆっくりとはだけたのだった。
セレーネとの初めての顔合わせの時とは違って、今日のガイウスはラフな格好だ。容易く彼の引き締まった身体があらわになる。
それを見たジルは、静かに目を見開いた。
「旦那さま? 呪いによる傷は治らないはずでは……」
「ああ、本来は、な。だが、見ての通りだ」
かつて黒い怨念が刻まれていた胸の傷。だが、二人がどれだけくまなく探しても、その傷跡はもう跡形もない。
「これがセレーネの奇跡の御業だ」
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